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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)9977号 判決

原告 谷口義直

被告 保坂清

主文

被告は原告に対し金六萬二百三十六円及び昭和三十一年十二月二十九日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

原告主張の日時場所で、被告がその過失によりその運転するマツダ自動三輪トラツクを自転車で進行中の原告に衝突させ、右自転車をはね飛ばして破損させたことは当事者間に争いがない。よつて被告は不法行為者として原告に対し右事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

原告本人尋問の結果とこれによりその成立を認めうる甲第二ないし第五号証を綜合すれば、原告は本件事故によりその主張のような財産上の損害(但し自転車損害を除く)(注 治療費等二万二百三十六円)を蒙つたことを認めることができる。原告は自転車損害として金四千円の賠償を求めているが、原告本人尋問の結果によれば、被告は自転車の破損箇所を修理して使用できるようにして原告に提供したが、原告は被告及びその使用者たる中武開発株式会社には賠償問題について誠意がないとしてこれが受領を肯ぜず、新に金四千円で中古自転車を買入れ、被告の提供した自転車は約九ヶ月間自宅の軒下に置いた后他に六百円で売却した事実を認めることができるので、自転車の破損による損害は被告の原状回復によつて償われたものとみるのが相当なので、これが賠償を求めることはできないものといわなければならない。

次に精神上の損害額について判断する。原告が中学校の教諭であることは当事者間に争なく、原告が本件事故により左腕や第七肋骨等に骨折傷害を蒙つたことは原告本人尋問の結果と前記甲第二号証により明らかである。そして原告本人尋問の結果によれば原告はやむを得ない用務のため事故の翌日から数回登校はしているが、正常の勤務に服したのは仝年十月一日からであること、現在も受傷部に時として痛みを覚え、庭球部長としてラケツトを握ることもできなくなり、教師としての将来にも不安を感じていることが認められるので、これらの事情を参酌して原告の蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料としては金四萬円をもつて相当なるものと認める。

よつて被告は原告に対し前記財産上及び精神上の損害合計額金六萬二百三十六円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和三十一年十二月二十九日より支払済まで民法所定の年五分の割合による損害金を支払う義務があるので右の限度において原告の請求を正当として認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

なお、本件については原告と中武開発株式会社との間に示談が成立し、右会社に対する訴は取下げられたものとなることを附記しておく。

(裁判官 石井良三)

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